世の中の困りごとを解決する卒論

図書館前の桜

新入生の皆様,ご入学おめでとうございます.「とんじょぶーろぐ」もいよいよ毎週水曜日に公開です.第一水曜日は教員,それ以外の水曜日は学生が書きますのでお楽しみに!

さて,東京女子大学には卒業研究があり,4年間の学びの集大成となる卒業研究にコミュニケーション専攻も力を入れています.渡辺ゼミでは「世の中の問題を解決する」卒論に取り組むことを目指しているので,今回はその一つを紹介し,更にそれがどういう展開を見せているかをお話ししたいと思います.

卒論の紹介

吉川りな:視覚障害者向けコップのデザイン ー 3Dプリンタで製作した,音の変化で水量が分かるコップ,東京女子大学コミュニケーション専攻卒業論文(2018)

吉川さんは,テレビ番組で,視覚障害者がカップ麺にお湯を注ぐときにどこでお湯の注入を止めればよいのかわからずに困っているのを見ました.そこで,視覚障害者が液体を注ぐときの液面の深さを,視覚を使わずに判断できるようなコップを造ろうと考えました.まず,視覚障害者の日常を知るために視覚障害者2名にインタビューしました.その結果,視覚障害者は日常生活において聴覚情報を頼りにしていることを確認できました.そこで,液体をコップに注ぐときの音の変化に注目することにし,コップの断面を変化させることでコップに溜まった液量に応じて液体を注ぐときの音を変化させられるのではないかと考えました.身近なコップで試してみたり粘土で作ってみたりしたあと,3Dプリンター(図1)で様々な形のコップを製作し,液体を注ぐ時の音の変化が判別できるかどうかを視覚障害者3名で実験し,音が変化しやすいコップの形状の変化を見つけました.実験は,ジャグに溜めた室温の水を,コップの縁から数㎝離して,一定の速度でコップに注ぐ条件で行いました.その音を録音し,音声分析ソフトPraatで解析したスペクトログラムの変化と被験者の主観評価から,音が明確に変化しているかどうかを判断しました.実験の結果,効果があったコップの一つが「3Dコップ4」です(図2).視覚障害者3名の実験の結果,視覚障害者は音の変化だけで,図2の青線レベルは±30ccの誤差で,緑線レベルは-15ccの誤差で液量を判断できることが分かりました.

自宅3Dプリンター

図1.3Dプリンターの例

3Dコップ4

図2.「3Dコップ4」(吉川[1]の図8-8)

その後の展開

吉川さんの卒論はここで終了しましたが,音の変化で液量がわかるアイデアを実用化したいと思い,吉川さんの卒業後も渡辺は改良に取り組んでいます.まず,図2のコップは形状が複雑なので洗うのが大変です.それにこのコップでなければ音が変化しません.この問題を解決するために,コップではなくて蓋を工夫することにしました.図3に示すように,コップの上面を覆う円盤の真中に中空の円柱をぶら下げ,この円柱の中を液体が上昇する時の音の変化を利用しようと考えたわけです.実験の結果,円柱下部に液面が達した時と円柱の中を液面が上昇するときに音が変化することが分かりました.円柱の真中を狙って液体を注ぐのは視覚障害者には難しいことなので,円盤の上面全体に複数の穴を開けて複数の円柱をぶら下げることにしました.この変更により,音が増幅されて更に聞き分けやすくなりました.このアイデアは特許出願済みです.

蓋をかぶせたコップの模式図

図3.蓋をコップにかぶせて液体を注ぐ模式図

イノベーションを生み出そう

この段階に至るまでに何十個ものコップや蓋を3Dプリンターで造形しています.朝ドラの「まんぷく」に登場する萬平さんのように,思いついたアイデアを現実に試してみて,うまくいかなくてもあきらめずに次のアイデアを考えることが重要です.そういう姿勢から「イノベーション」が生まれるのだと思います.みなさんもコミュニケで,世の中の困りごとを解決するものづくりのアイデアを考えて試してみませんか!

渡辺隆行
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