徒然日記(1)

――つれづれなるまゝに、日くらし、硯にむかひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

兼好法師の似顔絵

兼好法師の『徒然草』の冒頭の一文であることは、ブログをお読みのみなさんはお分かりのことと思います。現代語では、「することもなく手持ちぶさたなのにまかせて、一日中、硯に向かって、心の中に浮かんでは消えていくとりとめもないことを、あてもなく書きつけていると、思わず熱中してしまい、異常なほど、狂ったような気持ちになるものだ」という感じでしょうか。

私が担当する回では、東京女子大学コミュニケーション専攻に関して私の心の中に浮かぶことをとりとめもなく書いてみようと思います。気楽にお付き合いください。まず思い浮かぶことは、コミュニケーション専攻の学生たちは忙しいということ。これは東女の他の専攻の学生たちにもいえることですが、ほとんどの学生が授業に真面目に出席し課題をこなします。コミュニケーション専攻ではグループワークも多く課されますが、和気藹々と生き生きと取り組んでいる学生が多いと思います。グループ活動で揉めることが少ないことは、授業担当者にとっても非常にありがたいこと。

東京女子大学では学生たちを鍛える場が用意されており、学生たち自身がそうした機会を積極的に利用することで、大学卒業時には学問的な知識はいうまでもなく社会人力も身に着けることができると思います。

次に思い浮かぶことは、専攻オフィスのすばらしさ。他大学ではあまり見かけないシステムだと思います。一般的な大学では、学生たちが頼れる学内のリソースは学務課、学生生活課などの在学生全員を相手とする事務組織です。大病院の受付でわからないことを尋ねるのと似ているなと個人的にはずっと思っていました。ところが、東京女子大学には各専攻にオフィスがあり、履修をはじめ何からわからないことを聞きに行けば教えてもらえます。コミュニケーション専攻の助手のTさん、アルバイトの方々は、本当に親切。でも個々の学生のためを思ってでしょう。時には厳しく学生に接していることもあります。高校までとは異なる環境に早く慣れるために、専攻オフィスは欠かせない存在。これ間違いありません。

最後は、やっぱり卒業論文のことです。前回の渡辺先生のブログにも書かれていたように、東京女子大学では全員卒論が必修。とてもよいことだと思います。なかなかテーマが決まらない、考えがまとまらず文章が書き進められない、調査の計画がうまく立てられない、就職活動と両立するのは大変、データの統計分析が難しくて・・・・・などの苦労は多かれ少なかれどの学生も経験しますが、四年間の集大成を「卒業論文」という形に残せることは、一生の宝物になると思います。そんな貴重な経験のお手伝いをすることができるので、私は毎年、学生たちをまさに叱咤激励して卒業論文のための研究と執筆にお付き合いしてきました。コミュニケーション学という学問は、マス・メディア、AI、CMC、ユニバーサルデザイン、世代間コミュニケーション、外国人とのコミュニケーション、若者文化、スポーツの応援・・・・・など多種多様な事象を研究対象としています。また、コミュニケーション学は学際的な学問分野ですので、心理学、社会学、言語学、情報学などの知見や研究方法のうちから、より適切なものを用いて研究することができます。

東京女子大学に赴任してから14年間、卒業研究の指導をしてきましたが、自分のやりたいことを見つけとことん追求する学生たちに多く出会いました。AKBファンの学生、ジャニーズファンの学生は、アイドルファンを応援するときの「迷惑行為」やアイドルの「同担」について、それはそれは熱心に、かつ学問的にすばらしい研究をしました。「ふつう」という言葉を私たちはどのように使っているのかを多くの実例を分類し、文脈によって「ふつう」が異なる意味合いを持つことを明らかにした卒論もありました。トランプ米大統領の就任に関する日本のニュース番組を題材に、テレビにおける政治報道の中身を詳細に検討した卒論もありました。テレビアニメのポケモンのキャラクターのジェンダー描写を小学生たちはどのように受け止めているかを明らかにした研究もありました。

これまで指導した学生は、150人以上に上るため、ここで全ての卒論に言及することはできませんが、どれも学生たちの「好き」「なぜ」を追求したもので、個性がキラキラ光る力作でした。

大学生になれば、することもなく手持ちぶさたなのにまかせて、一日中心に浮かんでは消えていくとりとめもないことをやれるのではないか、と思っている人がいるかもしれません。まさに『徒然草的』大学生活。それはそれで、「自分とは何ぞや」「私という人間の存在価値はどこにあるのか」といった自問をすることにつながる可能性がありますから、必ずしも悪いことではありません。そうした時間を重ねることで、自分の将来について真剣に考えることもあるでしょう。その一方で、東京女子大学のような「厳しい大学」に身を置き、自分の好きなことに迫ってみるという大学生活もなかなかよいものだと思います。

有馬明恵

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