大学における統計教育の今後

コミュニケーション専攻は典型的な文理融合型の専攻であり、統計学やコミュニケーション研究法に関する授業も必修になっている。しかし、高校の私立文系コースから本学に進学してきた多くの学生たちは、統計に苦手意識を持っており、その学生たちにもわかるようにデータ分析などの授業をするのは決して簡単なことではない。

数年前「統計学が最強の学問である」という本がベストセラーになって以降(統計関連の本がベストセラーになること自体驚きである)、巷では「文系のための....」とか「数学が苦手でもわかる......」などというフレーズではじまる統計に関する解説書が数多く出版されるようになった。その多くは、カラーのイラスト入りで初学者にも分かりやすく書かれており、学生たちに紹介している本も少なくない。ただ、それぞれに一長一短があり、この一冊が絶対にお薦め!というものがなかなか見つからない。

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その統計学に関して、近年いろいろと気になる動きがある。例えば、今年米国統計学会(American Statistical Association)が発行するジャーナルThe American Statisticianが有意性検定に関する特集を組んでいる。

EditorialのタイトルはMoving to a World Beyond "p < 0.05"で、この論文の中でWasserstein, Schirm & Lazar (2019) はこの特集号に寄せられた43本の論文の内容やその他の関連文献を精査した結果、今後statistically significantや類似表現であるsignificantly different, p < 0.05, nonsignificantなどの表現を使うことは止めるべきであると結論している。Wassersteinらが上記のような宣言をした背景には、「有意」「非有意」という二分法がこれまで数多くの問題を生んできたことが上げられる。

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有意確率を5%に設定することに対する異論・反論は別に目新しいことではなくかなり以前から見られるし、米国心理学会なども既にp < .05などではなく、例えばp =.035と正確なp値を示すように求めている。中にはBasic and Applied Social Psychologyのように先陣を切って「統計的に有意」などの表現を禁じるジャーナルも出てきてはいるが(なおBASPではp値の報告でさえ禁じている)、まだ大半の行動科学系のジャーナルは「統計的に有意」などの表現を用いることを禁じるまでには至っていない。

日本でも、昨年「心理学評論」が統計に関する特集を組んでいるが、そこではベイズ統計モデリングやオープンサイエンスが柱となっている。その特集号の中で、林(2018)は頻度論について「p値の誤用・悪用は学問とデータ解析の価値を堕せしめるに十分な行為である」としつつ、「p値への批判は頻度主義そのものに存する理論的欠陥というよりも、都合の良い直感または誤った解釈に基づいて数値を弄んだことに起因するものが大半であると思われる」(p. 148)と指摘している。

近年のベイズ統計への関心の高まりや、上述した米国統計学会の声明が、今後心理学、社会学、コミュニケーション学などの分野にどのような影響を及ぼしてくるか、大変気になるところである。こうした動きによって、近い将来、学部や大学院における統計教育のあり方も再考を迫られる可能性が出てきたからである。

近年数多くの新しいデータ解析法が開発されており、自分が学生時代に学んだ分析法が徐々に時代遅れになりつつあるようにも感じられる。学生への教育だけではなく、自分の研究に関しても、現在進行中の統計革命から目が離せない。

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斉藤 慎一

参考文献

  • 林賢一(2018).統計学は錬金術ではない.「心理学評論」Vol.61 (No.1), 147-155.
  • 西内啓(2013).「統計学が最強の学問である」.ダイアモンド.
  • Wasserstein, R. L., Schirm, A. L., & Lazar, N. A. (2019). Moving to a World Beyond "p < 0.05". The American Statistician, 73(sup 1, 1-19).
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