アイデアを熟成し実行するために勉強しよう

渡辺です.

1年ぶりの専攻ブログに何を書こうかと考え,最初はオンライン授業にしようかと思いました.自分の実感や学生の感想として,オンライン授業だから対面授業に劣るということはなく,オンライン授業ならではの良さがわかっています.同時に,デジタル化したオンライン授業ではコミュニケーションの質も量も飛躍的に増加し変化するので,その負担が大変なことも感じています.休みなく続く8週目のオンライン授業に今現在は疲労気味なので,今日は他のテーマで書くことにしました.(笑)

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情報デザイン領域の自分の授業の中心軸はデザインではなく人間中心設計です.ユーザである人間を観察・調査してそのニーズを見出し,そのニーズを解決するアイデアを生み出し,そのアイデアの有効性を確かめるプロセス,それを教えています.その中で最も難しいのがアイデア発想だと思います.「さあ,良いアイデアを考えましょう!」と言われて出てくるものではないからです.そこで今日は2冊の本を紹介したいと思います.

1冊目はジェームス・W・ヤングの『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)です.この本でヤングは,「スペキュラティブ(投機的,思索的)」という言い方をしています.型にはまって確実に物事をこなす,想像力に乏しい保守的な人間でなく,新しい組み合わせの可能性に常に夢中な態度を示します.

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学校教育にせよ社会にせよ,今の世の中が求めているのは「偉い人(先生、上司)に言われた通り確実に物事をこなす人間」です.それは本当に正しいのか,他にやるべきことがあるのではないかと思索する人間は求められていません.でも,そのような社会ではイノベーティブなアイデアは生まれません.上手くいかないかもしれない,失敗するかもしれないけど新しい組み合わせの可能性に挑戦してみる態度が必要だと思います.

ヤングは,アイデアとは全く新しく考えつくものではなく,既存の要素を組み合わせる,既存の要素の新しい組み合わせが思考のジャンプで結びついたものがアイデアだと言っています.そこには事物の関連性を見出す,他の人には見えていない・見逃している部分を見出す能力が必要です.ヤングはまた,アイデアが生まれるには次に示す5つの段階が必要だと言っています.

  1. 資料収集
  2. 心の消化過程(資料を咀嚼)
  3. 孵化させる
  4. 常にその問題を考えている→ふとアイデアを思いつく
  5. 現実の条件に一致させるためにアイデアを磨く

つまり,アイデアがひらめく前に,その問題についてじっくり考え抜く習熟期間が必要なのです.僕は学外のアイデア発想のワークショップに何回も参加したことがありますが,その場で問題が与えられて,その場の乗りと勢いでアイデアを考えて,みんなでそのアイデアに酔っているだけのことが多いです.本当のアイデア創出とはもっと時間がかかるものだと思います.そこには知的体力,一つのことを粘り強く考え続ける力も必要です.アイデアを思いついたら,本当にそのアイデアが有効かを評価することも大事です.毎週1.5時間の授業でこれらを教えることは難しいのですが,卒業研究ではこれを経験することができます.

2冊目に紹介するのは金出の『独創はひらめかない』(日本経済新聞出版)です.金出はカーネギメロン大学のロボット研究所の所長を勤めたこともある人です.この本で金出は「素人のように考え玄人のように実行する」大切さを説いています.金出は「発想は単純,素直,自由,簡単でなければならない」と言っています.そのような素直で自由な発想を邪魔するのがなまじっかな知識であると指摘しています.でも,発想を実行に移すには知識が必要です.

素直で自由な発想は遊び心から出てきます.それがプレイフルでスペキュラティブなマインドセットだと思います.でもせっかくのアイデアも実現に結びつかなければアイデア倒れで終わってしまいます.世の中にはアイデアは良かったのに技術が追いついていなかったために後の世代になるまで実現できなかったアイデアがたくさんあります.また玄人のように実行するためには知識と技術が必要です.つまり,専門知識を勉強する必要があります.

思いつきのアイデアを考えるだけでなく,じっくりとアイデアを熟成しそれを実行する,そのために本学でいろいろな知識やスキルを勉強し経験しませんか.

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渡辺隆行

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