大坂なおみさんが凄すぎる

グランヴィルによる花の妖精の版画

大坂なおみさんが、有名なTIME誌から2年連続「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれました!(TIME, 2020)。今年は去年よりもさらに英雌的な活躍で、オバマ元大統領夫人からもtwitterで賞賛されました。大坂さんはテニスのUSオープントーナメントで、さりげなくBLMを主張しました。初戦から決勝戦までの7つの試合に毎回黒いマスクで登場し、毎回違う名前を白抜きの文字でアピールしました。それは、理不尽に命を絶たれた7人の黒人の名前でした(濵田, 2020)。もし決勝戦まで勝ち残らなければ7人全員の名前を世界に知らしめることはできませんでしたが、決勝戦まで勝ち進み、ついに優勝を果たしました!格好良すぎる。

優勝インタビューで「7つのマスクでは何がメッセージだったのですか?」と聞かれた大坂さんは、「あなたは何を受け取ったのか?私の行動で人々が話しを始めてもらうことが意図だった」と切り返したことで、さらに強い印象を与えました。暗い話題の多い中、世界中の人にポジティヴな感動と勇気を与えました。

大坂さんのBLM活動についての日本の大方の反応は、テニス選手が政治的な表現を行うことに対する疑問でした(バイエ・マクニール,2020)。大坂なおみさんの行動は、まさにそういう人権の制限、表現の自由への規制に対してにどう対応していくのか、ということを深慮してのことだったように思われます。

大坂なおみさんのコミュニケーションをどう思いますか?

僕自身、2019年から新しく「ダイバーシティとコミュニケーション」という授業をしています。その講義の中では、フィリピンやインドからの移民が多いカナダのウィニペグがダイバーシティを取り込んでいく好例を紹介しました(City of Winnipeg, 2016)。その一方で、米国ミネアポリスで5月におこったGeorge Floydさんに対する警察の不当な暴力と、それに続くBlack Lives Matter(BLM)運動を何度か取り上げました。歴史でならった黒人の人権運動は過去の話ではなく、現在進行形の課題なのでした。トランプ大統領は、BLM運動を反社会的暴動とみなして、警察や軍隊の力で鎮圧しようとしていますが、BLM運動をしている側は、平和的なデモを維持して、警察組織の改革を実現しようとしています。授業の中ではデモに便乗して暴動を働こうとする人たちを必死に禁止するBLMの運動家の様子も紹介しました。米国は、警察による暴力という課題を長年抱えていて、すでに既存の警察組織を一旦解散して再編成して成功したニュージャージー州のカムデンという市があります(Andrew, 2020)。

米国で起こっている問題は、Black Livesにとどまりません。トランプ大統領がコロナ・ウィルスを中国ウィルス(China virus)と呼びつづけていることによって、中国人と中国人と区別のつかないアジア人全体への不当な差別も増加しています。WHOが病原体に特定の地域や国の名前を使うことを禁止しているのは、ヘイトを避けるコミュニケーションの工夫なのですが、トランプ大統領は、ヘイトを利用して自分の政治基盤を強化しようとしています。最近のアメリカは死者が20万人を超え、アジア人からでなく友人や身内からどんどん広がっているために、もうあまり聞かれなくなりつつありますが、感染初期のころは、アメリカから出て行けと言われたアジア人のことなどがtwitterで良く話題になっていました。

トランプ大統領のコミュニケーションをどう思いますか?

TIME誌の「世界でもっとも影響力のある100人」にはもう一人日本人が選ばれました。伊藤詩織さんです(坪池・生田, 2020)。伊藤詩織さんは政府の要人と親しい人から受けた性的暴力について、もみ消されそうになったのを泣き寝入りせずに訴え続け、女性の人権を守り広げる活動をしています。性暴力に対する日本の法制度は不備が多いと法制度の改革を訴えている「フラワーデモ」という活動があります。コミュニケーション専攻の卒業生の濱地咲季さんは、ディレクターとしてフラワーデモを長い間取材し、ドキュメンタリー「私がやらない限り〜性暴力を止める〜」としてまとめました。性暴力の被害者は女性だけではありません。この作品は今年の7月に放送されました(ザ・テレビジョン, 2020)。硬派な番組はゴールデンタイムには放送されないのが残念ですが、こうして人権を守るコミュニケーションをねばり強く進める人たちがあります。

伊藤詩織さんや濱地咲季さんのコミュニケーションをどう思いますか?

こうしてみると、最近、とても女性の活躍が目立ちます。ニュージーランドの首相のジャシンダ・アーダーン(Jacinda Ardern)さんやフィンランドの首相のサンナ・マリン(Sanna Marin)さん、環境活動をするスウェーデンのグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さんなどなど、優れた方がたくさんいらっしゃいます。人は産まれながらにして等しく人権をもつということを、現実のものとすることがいかに難しいかを思い知ることも多い時代です。しかし、一方では最近他界して注目されているギンスバーグ(Ruth Bader Ginsburg)さんのように、女性の人権擁護と地位向上のために戦い続け、多くの女性を勇気づけて世界を開いてきた先人たちがいます。そのおかげで、こうしていろいろな領域で女性が能力を発揮し、人間の未来を明るいものに変えようとしています。

停滞してしまった世界を女性が打開していく時代がやってきました。

PS 挿絵は直接関係ありません。19世紀のフランスの版画で、グランヴィルによる花の妖精です。

by 小田浩一 26 September, 2020

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