顔文字や絵文字、スタンプを、なぜ使うのだろうか?
文字ベースのコミュニケーション、特に電子メールのようなコンピュータを用いる文字ベースのコミュニケーションでは、対面のコミュニケーションに比べて伝達される情報の多く(たとえば、表情や声のトーン)が欠如してしまいます。したがって、社会的なやりとり(雑談など)では、自分の感情のような情報を相手に正しく伝えることは難しいと言えます。そういうこともあり、もともと電子メールはビジネスにおいて主に事務的な伝達に用いられていました。
しかし、制約のあるコミュニケーションメディアであっても、場面に応じて使いやすいように、わたしたちはさまざまな工夫をするものです。文字ベースのコミュニケーションでの代表的な工夫は顔文字です。顔文字とは記号を組み合わせて作られる表情です。文字ベースのコミュニケーションに、送信者が伝えたい表情の情報を顔文字という形で加える工夫がされるようになりました。つまり、わたしたちは電子メールでも自分の伝えたい感情を気軽に表現することができるわけです。その後、絵文字やアプリによってはスタンプといった新たなグラフィカルシンボルも用いられるようになりました。
顔文字を使う理由は上述のとおりです。顔文字は、送信者が伝えたい感情を受信者により正確に届けることをサポートしてくれるわけです。
それでは、絵文字やスタンプを使う理由は何でしょうか?
人の顔や姿はもちろん、食べ物、植物、動物、・・・、さまざまな絵文字があります。スタンプはもっとたくさんの種類がありますね。
皆さんが絵文字やスタンプを使う場面を思い浮かべてみてください。
なぜ絵文字やスタンプを使うのでしょうか? 顔文字のように、相手に伝えたいことを伝えるサポートのためでしょうか?
絵文字やスタンプを使う場面には、いろいろな意見があると思います。いくつか思いついたものをあげてみます。「返信メッセージを書くことが面倒なとき、忙しいときに使う」「やりとりを終わらせたいときに使う」「わざわざ文字を書くまでもない反応(生存確認)として使う」「新しい絵文字やスタンプをやりとりの話題として使う」などでしょうか。
わたしのあげた上の例からは、絵文字やスタンプの使い方は人や状況によって変わりやすく、共通のルールがあるわけではないと言えそうですね。それでは使いたくなる理由は何でしょうか? わたしは楽だからではないかと推察します。絵文字やスタンプはやりとりをあいまいにするために使われているのではないかという気がしています。つまり、顔文字のように自分が伝えたいことをわかりやすく伝えようとするのではなく、自分の伝えたいことをあいまいにすることで自分の伝えたいことをあえてぼかして、相手が自分の伝えたいことを察してくれることを待つやりとりとでも言えましょうか。相手に伝えたいことがあっても、自分からは言いたくない、発言によって責任を取りたくない、相手に受け入れられなかったときに恥をかきたくない、などがその原因で、それをサポートしているのが絵文字やスタンプと考えることもできそうです。
察する、忖度、慮る・・・今の社会を生きる多くの日本人を表しているとも言えますが、他方、対面と比較した際の文字ベースのコミュニケーションの制約がなくなったわけではないけれども、対面ではできない新しいコミュニケーションが生まれているとも言えましょう。家族とも、友人とも、恋人とも、モバイル端末をとおして常につながっている時代だからこそ、あいまいさは、つながりっぱなしの現代人が衝突を避けるためのひとつの策なのかもしれません。
コミュニケーション専攻では情報デザインを学ぶことができます。今回は顔文字、絵文字、スタンプについて考えてみました。情報のあふれた現在の人と人とのコミュニケーションを見つめ、より良いモノやコトを考えることは情報デザインです。少しでも興味をもっていただけたら幸いです。