女子大なにそれ美味しいの?
今年の4月ごろに朝日新聞社「AERA」の企画で、女子大学と企業が座談会を行い記事にするものがあり、そのオンライン座談会に参加した[1]。あらかじめ宿題が出て、メモを用意して提出したのだが、その宿題の中に『「多様性」が叫ばれるななか、「女子大」をネガティブにとられられるシーンもあると思います。そういったお声に対し、貴学のお考えをお聞かせください。』という項目があった。なるほど、そういう見方もあるのかという新鮮な驚きがあった。女子だけだと多様にならないという考え方をする人がいるのだということを知ることができた。確かに性差も多様性の1つの属性ではあるが、たった1つの属性にしかすぎない。人間の持っている多様性にはもっとたくさんの軸がある。同じ性別の人たちの中にある多様性の方がずっと大きい。乃木坂46の白石麻衣、スタントウーマンのアリマ・ドージー、自民党総裁選挙に出た高市早苗、ショパンコンクールの2次選考に進んだ小林愛美と有名な女性をどんどんあげていくと、女性だけだから多様性が少ないなどとはとうてい言えないことがすぐに分かる。むしろ女子だけの環境の方が個性が伸ばしやすく多様性が育ちやすいのは、女子校出身者が良く口にすることでもある。
そこで、この項目については以下のようなメモをつけて回答した:「多様性・ダイバーシティを叫ぶというのは、多様な人の考えかたやニーズをインクルージョンすることによってコミュニティを発展させるという考え方です。男性が多数派のコミュニティに少数の女性や少数の外国人が混ざっていても、声の大きい多数派の日本人男性の意見に支配されている状態はダイバーシティを主張できる状態とは言えません。ダーバーシティを支配して押さえ込んでいる環境です。そもそも、女子大学の学生は等質ではありません。日本人で女性という属性だからといって、みんな同じではありません。「ダイバーシティとコミュニケーション」という講義を担当していますが、その授業で教える大事な1つの要素に、受講生同士の中にある多様性に気づいていくというものがあります。自分達の間にある多様性に感受性を持つことと同時に見かけのカテゴリで区別せずに相互に理解する。理解できなくても排除しないで、そのままの存在を許容していく、上手に共存・発展するにはどうするかを考えていきます。少数の声に耳を傾けてインクルージョンしていくことからコミュニティを発展させるというダイバーシティとインクルージョンの思想は、(一人ひとりを大事にしていく)キリスト教主義の女子大の中でこそ育てやすく、実体化していけることだと思います。」(カッコ内はもともとのメモにない箇所で、このブログのために加筆した)
その次の項目は「そのほか、座談会で伝えたいことがございましたら、ご記入ください。」というものだったので、以下のように回答した:「女子学生は、女子学生は数学や科学の能力が低いというようなマイナスのステレオタイプの影響を受けやすいという研究があります。共学では性別ステレオタイプが表面化しやすいことを考えると、女子学生が能力を伸ばしていくのには女子大学の役割が大きい。女子学生がリーダーシップをみがくのに共学と女子大学とどちらが容易かは想像するまでもないと思います。女性の教職員が多く、また、卒業生や先輩たちにロールモデルも見つけやすいことも大きなプラスです。女子学生が女子学生だけの環境でより伸びることについてたくさんの研究が報告があります。日本のジェンダーギャップ指数はG7参加国の最低、全153カ国中の121位でした。このことは、近年大学の共学化がすすんできたことが必ずしも女性の進出に寄与していなかったことを意味するのかもしれません。日本は女性が力を発揮していくための伸び代が非常に大きいということであり、女子大学が日本の社会に果たす役割はますます大きくなっていると言えるでしょう。」ここで書いているマイナスのステレオタイプの影響は、立証された説とは言えないが、ありそうな仮説とされている[3][4]。
女性の活躍が望まれている一方で、女性の地位がどんどん下がっている日本で、大学教育をどうすれば女性を勇気づけ、世界にインクルージョンしていけるだろうか?大学は単純に共学化することが順当な道のように見えるが、果たしてそうだろうか?実はそうではないかもしれない。
女子だけ、男子だけに分けて教育するのと共学にするのとどちらが教育的に効果があるのかという研究はたくさん行われている[2]。Wikipedia[6]によれば、アメリカ教育省が2005年に行った文献調査があり、2221もの研究を総括して「学業成績、自己概念、長期的な成功の指標など、主要なステークホルダー(生徒とその親たち)が最も関心を持つと思われる結果については、一定の程度、男女別学が支持される」とまとめている。つまり、2005年の時点で2000件以上の関連の研究を調査・総合した結論として、男女別学で教育を受けた方が、成績も良くなるし、自己概念も肯定的になるし、教育の成果として成功しやすいという研究成果が出ている、ということになる。
もっと最近の、アジアで行われた、より厳密にコントロールした研究もある[5]。韓国ソウルでは、家庭の経済状態や本人の志向・意図と無関係に男女を共学や別学の高校にランダムに割り当てるという制度があるため、別学と共学の効果を評価するのに適している。大学入試における得点や進学先にどう影響するかを調べた結果は、別学の高校での教育の効果が明らかだった。たとえば、別学校の学生は、共学の学生に比べて、4年生大学に進学する割合が多く、2年生の短大に進学する割合が少なかった。この効果は、学んだ高校の教員の質や私学共学の別、学生/教員比率などの効果を差し引いた後も明確に残っていた。
高校まではそうかもしれないが、大学は違うのでは?という疑問については、2014年のオーストラリアの報告がある[3]。エセックス大学において通年の経済学入門のコースを履修する学生を同じ性別の学生だけのクラスと、共学のクラスとにランダムに分けて教えた。8週間後のテストでは、全体を平均すると女子学生は比較的リスクを取りにくい傾向にあったが、女子だけのクラスの学生は共学クラスの学生よりリスクの高い選択肢を選ぶ傾向があった。また、若干だが、その傾向は、男子学生よりも高かった。この1週間に1回だけの別学の授業を受けた女子学生は、その後の成績も良い傾向があり、長期的効果もあることが示唆された。そして、この別学の効果は男子学生にはみられなかった。
座談会に合わせてにわか勉強した中身を、このブログのために少し膨らませて書いてみたが、
そうなんです。いくつかの科学的根拠によれば、どうも女子大は美味しいんです!
by 小田浩一, 11 October 2021.
文献
[1] AERA(2021)特別広告企画:女子大学×企業 スペシャル座談会「女子大学でなりたい私になる」. 6月21日中央綴じ込み, 朝日新聞出版.
[5] Park, Hyunjoon; Behrman, Jere R.; Choi, Jaesung (2013). Causal Effects of Single-Sex Schools on College Entrance Exams and College Attendance: Random Assignment in Seoul High Schools. Demography 50 (2): 447-469. doi:10.1007/s13524-012-0157-1.
[6] Wikipedia (2021) Single-sex education. (September 29,2021).