不確実な時代に未来を創造する変革力
受験生の皆様は自分の将来をどのように考えていますか?まだ不確実でいったいどうなるのか予測がつかないのではないでしょうか.では,どのような態度で今を生きればよいのでしょうか?どのようにして自分の未来を切り開くのでしょうか?今日は,「変革」をキーワードに話をしようと思います.
『エフェクチュエ-ション』(サラスバシ-,2015)は,「原因と結果」の「結果(effect)」に焦点を当てた本です.サラスバシ-は,不確実なことが多くて結果が予想できない起業家の世界を質的研究(起業家にインタビューして,その発話プロトコルを分析)して,起業家達が不確実な未来にどのように対処して事業を展開していったのかを調査しました.すると,熟達した起業家達は,原因に焦点を当てて今得られるデ-タから未来を正確に予想しよう(つまり未来は変えることができないと考える)とするのではなく,今手元にある手段を使って何ができるか(未来を創造・デザインする)を考えていることがわかりました.自分自身を知り自分の知識をまず頼りにし,自分の持っている人脈の助けを借りて未来を切り開いていくメカニズムと,その人脈やリソースのネットワークを,外の世界に自発的に参加していきながら新たに創っていくプロセス,この両方に焦点を当てて未来をデザインしていたのです.未来はオ-プンで,今から創るものなのです.文献調査や市場調査を熱心にして失敗を避けようとするのではなく,外の世界に自ら働きかけて積極的に成功を引き起こそうとします.これは「変革」を引き起こすプロセスでもあります.未来は可能性に満ちていて,エフェクチュエーションの方法で取り組むことにより,より可能性に満ちた未来を創造できます.
(『エフェクチュエーション』図5.1)
『突破するデザイン』(ベルガンティ,2017)は,「意味のデザイン」を扱っています.イノベ-ションを生み出すためには,ユ-ザが受け取る意味(価値)をデザインする必要があり,ユ-ザにプレゼントするつもりでデザインします.それは,自分が持つビジョンからアイデアを考える,内から外へのイノベ-ション(創造)です.この本でベルガンティは,自分から始まる意味のイノベ-ションが,自分と似たペアとの助け合いのような議論,大規模なグル-プでのラディカルな議論,専門家への問いかけを経て,顧客であるユ-ザへと,内から外へと広がっていくと述べています.「変革」を生み出すイノベーションのために,自分からスタートして内から外へと仲間を拡げていく方向性は,「エフェクチュエーション」とも似ています.
(『突破するデザイン』図1-4)
両方の本とも,内(自分)から考えが広がっていきます.不確実な外の世界を分析することに力を使うのではなく,自分が今できることに焦点を当てて,そこから可能性を広げていきます.その過程で(自分の力になる)周囲の人と交わり,自分の可能性を広げていくのです.そうやって新しい未来を「変革」していきます.未来はすでに決まっているものではありません.今の自分はこれしかできない,自分の偏差値ではこの大学にしかいけないと考えるのではなく,今の自分からスタートして,自分が目指す未来を「変革」するために周りの力を借りて成長する,その推進力を持つことが大事です.まず,自分がなりたい未来(将来像)をイメージして,その目標に向かって自分を成長させましょう.そうすれば,今の自分と未来の自分との間に「変革」が生じて,イノベーションとでも呼ぶべき,新しい未来を創造できると思います.
今回紹介した2冊はイノベ-ションを生みだす起業がテ-マですが,高校生の皆さんの将来設計にも使えることがわかっていただけたでしょうか.大学生が就職を考えるときにも使えます.会社や大学などの組織の未来を考えるときにも使える,一般性のある考え方です.VUCA (Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)な現代社会でこのような考え方ができるかどうかで未来が大きく変わります.皆さんが自分の将来を自ら「変革」できることを願っています.
注:ページ最上部のイラストはDALL-E,ページ最下部のイラストはMidjourneyで制作しました.これらのサービスは人工知能を使って,指示した文章からイラストを描画します.
- [1] サラス・サラスバシ-著,加護野監訳,高瀬・吉田訳(2015),エフェクチュエ-ション,碩学業書.
- [2] ロベルト・ベルガンティ著,八重樫訳(2017),突破するデザイン,日経BP社.