学生の創造性とマルチメディアラボ

CDの写真

クッシーからの新作の知らせ

今日ひさしぶりにクッシーこと櫛田さんから新作のお知らせをもらった。櫛田さんはニューヨーク在住でフィルム・エディタをしている。東京女子大学・コミュニケーション学科(今は専攻になったがかつては学科だった)のOGで、卒業後に留学して映像編集を学び、そのままNYCで働いている。坂本龍一さんをフィーチャーしたCODAという作品(1)は、彼女の編集によるもので、ヴェネチア国際映画祭のアウトオブコンペティション部門に公式出品された。ヴェネチア国際映画祭はカンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と並ぶ世界三大映画祭の1つで、櫛田さんは坂本龍一さんと監督のスティーブ・シブルさんと赤い絨毯の上で写真を撮っていた。今回は、NHK BS1のザ・ヒューマンというドキュメンタリ番組の枠で作品がオンエアされるという。この作品(2)は、写真家で画家でもある陳漫(チェン・マン)さんをフィーチャーしたドキュメンタリで、監督は同じスティーブ・シブルさんで、音楽は坂本龍一さんだと教えてくれた。NHK BSの番組紹介ページに掲載の予告編を見ると、短い時間ながらとても美しい映像に感動を覚える。

マルチメディアラボとは

櫛田さんは、1995年に東京女子大学・コミュニケーション学科で、今は立命館大学の教授をしている坂田さんと僕が立ち上げた通称マルチメディア・ラボ(以下ラボ)の初代学生メンバーだが、ラボはその後もずっと続けられていて、プロのコンテンツ製作者も輩出してきた。東京女子大学には、芸術系の学科や専攻はないのだが、学内には多様なクリエイティヴィティを持つ人たちがいる。どの学年にも必ず、表現をしたい、コンテンツを創造したいと思っている学生がいて、綿々と続いている。例えば、東女瓦版は、1997年ごろからラボを使って学生新聞のデジタル編集、いわゆるDTPをしている。大学祭実行委員会も、学園祭のパンフレットをDTPで作っている。オケアノスという放送サークルのメンバーが使うこともあるし、ミニコミ誌を作りたいという学生や、作曲をしたい、映画を作りたいという学生も使った。リベラルアーツ教育はいろいろなことに応用できる力を育てる教育だから、卒業後に建築家になった人や法律家を目指す人もあり、当然コンテンツを作ったり表現の世界で活躍する人も出てくる。

ラボは、デジタル表現を学んでみたい、デジタル技術を使っていろいろな表現活動をしてみたい、コンテンツを作りたいという学生を支援して能力を育成する目的で立ち上げた。今のラボには12台のMacが置かれていて、全部にAdobe CCがインストールされている。ラボを授業で使っていない時間は、学生たちはこの場所で、illustrator, photoshop, premier, indesignなどなどプロのコンテンツ製作者が使っているソフトを自由に使うことができる。デジタルカメラや大判プリンタ、3DプリンタやMIDIキーボード、ドローンなどなど学生が使ってみたいというものを揃えて貸し出している。20年くらい前から、情報処理科目の中にビデオのデジタル編集のクラスが開設されて、その実習にもラボが使われている。東京女子大学には1学年1000人弱が在籍するが、このビデオ編集のクラスを履修するのは毎年せいぜい30人程度と少ない。しかし、その少ないクリエータたちは、毎年さまざまなAppを駆使して、みんなが面白く意欲的なオリジナル作品を制作している。

卒業後活躍するクリエータたち

コミュニケーション専攻を卒業する人も、他の専攻の卒業生と同じように、今なら情報通信関係、金融関係などの進路を選ぶ人が多い。他の専攻と比べてマスメディアや出版関係などに進む人は少し多めで、コンテンツを作る仕事に就く人も若干ある。どんな人がいるかというと、ICT系の会社でコンテンツを作成する仕事についた人、Webコンテンツを作っている人、雑誌の編集者になった人、カメラウーマンになった人、動画をつくる会社でMVやテレビ番組のコンテンツを作っている人などなど、長い年月でみると櫛田さん以外にもそれなりの数になっている。

僕のゼミの卒業生でちょっと思いつく名前をネットで検索してみて、コンテンツが閲覧あるいは参照できる人のリストを作ってみた。みなさん、なかなか素晴らしい活躍をしている。ここにリストできたのは、作品を自分のものとして公開できる人だけで、もっとずっと多くの人は会社の仕事として名前の出ない仕事をしているはずだ。他のゼミの卒業生にも少しずつ居るはずだから、コミュニケーション専攻全体では、きっとたくさんの卒業生たちがコンテンツを作り、表現する仕事をしてくれていて、世界を楽しませてくれているに違いない。

PS1 ラボは利用者の自主管理で大学の情報処理センターとは無関係。今は、助手の竹下さんと僕と、学生の中で得意そうな人が管理人になって、メンテナンスをしている。使いたい人は竹下さんや僕に声をかけてください。いつでもユーザ登録しています!

PS2 写真はラボで毎年出版していたデジタル作品集CD「あまいチョコレート」。ネット上に発表する方法は当時まだ未成熟で速度も不十分だった。この名前は、櫛田さんが泣きながら編集をした学長へのビデオインタビューの中で使われた表現。当時の学長は「女子大はそこにあるだけで称賛される甘いチョコレートのようなものではなく、いかに価値のあることをなすかによって存在感を持つものなのだ」と述べた。このCDは学長のいう意味で女子大が作った甘いチョコレートで、この作品群こそチョコレートのように価値があるのだという心意気を込めた。最初の2つのカバーはilllustratorを学びたい学生たちが描いたもの。3つ目は写真の得意な学生が参加して撮ってくれたもの。ラボ開設当時の追記可能なCDは1枚4000円、1枚焼くのに半日かかった。CDの表面にインクジェットでプリントする装置はとても珍しく、当時から非常勤講師として教えに来られていた慶応義塾大学教授の砂原先生が貸してくださった。

引用資料

小田浩一

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