東京女子大学の教学改革:リベラルアーツを求めて

「専門性」に対するコンプレックス

「先生の専門は何ですか?」 ことあるごとに尋ねられるが、いつも返答に困る質問だ。 学会への参加状況から社会心理学あるいは社会学が分野でいうと専門と言えるのかもしれないが、必ずしも今までずっと同じ分野で研究をしてきたわけではない。

高校生の頃に何となく(数III,Cまで学べるなら学びたいという理由で)理系を選択したが、特に行きたい学部があって理系を選択したわけではなかった。高3の部活が終わって本格的に受験のことを考えるようになると、自分が選択した理系という専門が有利となる学部が工学部や理学部などの少数の学部に制限されるらしいことが分かってきた。しかし幸いなことに、当時から関心のあった教育学部に加えて、人間や環境をキーワードとした文理融合型の総合系の学部でも当時理系受験ができるようになってきたことを知った。

勉強する男の子のイラスト

そんなかんなで最終的には人間や環境を学べる学部に入学することになったが、その後も自分の専門はのらりくらりと変わっていくこととなる。学部時代は地球環境問題を科学的に扱うゼミで学ぶことを選択し、大学院へ進学してからはより人間臭いことを学びたくなり、地域社会の人間関係に焦点を移すこととなった。そして、大学院卒業時に今後の進路について暗中模索している中で心理学とも本格的に触れ合うこととなった。

そして、それらをはじめとする紆余曲折な過程を経て、冒頭で挙げたような社会心理学(社会環境に応じた心の働きや行動を扱う学問分野)や社会学(社会で起こる対人的・集合的な現象の実態や影響過程を扱う学問分野)に自分の軸を重ねるようになっていった。ただし、それら学問分野もあくまでも自分と近いものの見方や捉え方をする人が多いという仮宿のようなもので、学部時代から一貫してそれら分野を「専門」としてきた人にとってのアイデンティティとは異なるものであることを自覚している。

東京女子大学の「リベラルアーツ」教学改革

そのような意味で、「リベラルアーツ」を柱とした女性リーダーを育成することを志す東京女子大学、さらにはその中でも様々な専門を持った教員が同居する文理融合型の専攻であるコミュニケーション専攻は、自分にとって居心地のよい場所であると言える。

さらに東京女子大学は、2024~2025年度にかけてリベラルアーツ教育の本質に磨きをかけた教学改革をしようとしている。1つの学問分野を個別に学ぶだけでなく、分野を自由に横断した学際的な学びを具現化するために、現在の専攻の垣根を取り除くコース制を設けるとともに、異なる分野の教員2名によるティーム・ティーチングを導入することで、教員同士や学生が一つの課題について多様な視点からダイナミックに議論を交わし学び合う「知のかけはし科目」を新設する予定である(東京女子大学, 2023)。

「挑戦する知性」

笑顔の女性たちのイラスト

グローバル化や情報化が急速に進む現代社会では、これまでの常識や当たり前では対処できない課題が益々増えている。そのような変化が激しい時代においては、個別の学問に捕らわれずに学問の領域間を自由に横断して、既存の「当たり前」さらには自分自身の「当たり前」から解放される学びやものの見方が求められる。

自分らしくありながら、それでいて自分を変え続けていく知性、東京女子大学が大事にするそのような「挑戦する知性」(東京女子大学, 2018)は、現代に生きる学生・教員双方ともにより一層に求められることであろう。

冒頭で自分の確固とした「専門」が無いことにコンプレックスを感じていることを告白したわけだが、これからも自らの専門に固執せずに学生とともに変わっていく挑戦する知性を持ち続けることで、仕事を終える最終期にはその感情を昇華させたい。

<参考文献>

福島慎太郎

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