「SNSとジェンダーに関する意識調査」(2023年1月実施)の結果概要

はじめに

今回のブログでは、2023年1月に行ったWeb調査の結果概要を報告します。この研究は、同じ専攻に所属する加藤尚吾教授と白銀純子准教授との共同研究で、東京女子大学女性学研究所共同研究48(2022〜2024年度)の助成を受けて行われました。

2023年1月10日に、Freeasyのモニターのみなさんにご協力いただき、Web調査を実施しました。回答者は日本在住の18~59歳までの男女各600名の合計1,200名でした。 調査目的は、1.Twitter(現在はX)やInstagramなどのSNSの利用状況・目的を明らかにし、さらには2.SNS上で女らしい表現やハッシュタグ運動と呼ばれるフェミニズム運動(社会運動の一種と捉えられる)を人々はどのように評価しているか、3.また女性たち自身はどの程度それらに関与しているか、4.そうした評価や行動は性別などのデモグラフィック要因やジェンダー意識とどのような関係にあるかを明らかにすることです。今回の報告では、1~3についての分析結果の概要をお知らせします。

1.Twitter(現在はX)やInstagramなどのSNSの利用状況とその目的

①情報を入手するために利用するメディア

世の中の出来事について信頼できる情報を得るのは「テレビのニュース番組」

「通常の新聞」「テレビのニュース番組」「自治体からの情報」「ポータルサイト」「マスコミのSNS」など18の媒体の利用有無を回答してもらいました。図1に示されているように、最も利用率が高かったのは、「テレビのニュース番組」で65.7%を占めていました。2位は「通常の新聞」(32.8%)、3位は「YouTubeなどのインターネット動画」(31.4%)、4位は「ポータルサイト」(29.8%)、5位は「民放の情報ワイド番組」(27.7%)でした。

また、男女で利用率が異なるメディアも多くありました。男性の利用率の方が高かったのは、「通常の新聞」(男性37.5%、女性28.0%)、「新聞・通信社のオンラインニュース」(男性24.8%、女性17.7%)、「ポータルサイト」(男性36.0%、女性23.7%)、「マスコミのSNS」(男性14.0%、女性8.5%)、「マスコミ以外の公式SNS」(男性16.5%、女性7.2%)、「電子掲示板サイト」(男性8.3%、女性5.3%)、「海外ニュースサイト」(男性8.0%、女性5.0%)、「YouTubeなどのインターネット動画」(男性36.3%、女性26.5%)でした。女性の利用率の方が高かったのは、「テレビのニュース番組」(男性61.8%、女性69.5%)のみでした。なお、「どれも利用しない」と回答した人が84名(7.0%)いました。

以上より、世の中の出来事について信頼できる情報を得るために全員が同じメディアを利用しているわけではないこと、特に性別によって異なるメディアが利用されている可能性が高いことが示されました。

図1

情報を閲覧するSNSはTwitter(現在のX)

日常的に情報を閲覧するSNSを複数回答で答えてもらいました。図2からわかるように、情報閲覧のために利用されているのは、Twitter(現在のX)が最も多く約5割の人が利用していました。次いでInstagramが多く35.9%を占めていました。FacebookとTikTokはそれぞれ14.7%と10.3%の利用率で、「どれも見ない」と回答した人の方が多く、35.8%を占めていました。

情報発信に利用するSNSで男女差がみられたのは、InstagramとFacebookでした。Instagramは女性(40.3%)の方が男性(31.5%)よりも多く、Facebookは男性(18.2%)の方が女性(11.2%)よりも多く利用していました。

②情報を発信するメディア

SNSで情報発信する人は多くない

日常的に情報を発信するSNSについても複数回答で答えてもらいました。図2に示されているように、「どれも利用しない」人が67.1%と最も多く、情報閲覧に比べ情報を発信する人はかなり少ないことがわかりました。

また、情報を発信するために利用されているメディアで最も多かったのもTwitterで22.8%を占めていました。その他のSNSの利用率は、Instagramで16.7%、Facebookで7.3%、TikTokで2.4%でした。なお、情報の発信においては、Twitter(男性26.3%、女性19.2%)でもFacebook(男性9.7%、女性5.0%)でも男性の方が女性よりも利用率が高いことがわかりました。

図2

SNSで発信する情報は特別な出来事

SNSで情報を発信すると回答した395名(男性212名、女性183名)に、SNSで掲載する12の事柄(自分の顔写真、行った場所の写真、食べ物の写真、旅行や遊びに行ったこと、学校や職場での出来事etc.)の頻度(全くしない~いつもする)を回答してもらいました。便宜的に「全くしない」という回答に1点、「たまにする」という回答に2点、「ときどきする」という回答に3点、「いつもする」という回答に4点を付与し、SNSで掲載する事柄ごとに平均値を算出しました。すると、「食べ物の写真」(2.47点)、「行った場所の写真」(2.51点)、「旅行や遊びに行ったこと(写真あり)」(2.33点)などの特別な出来事の方が、「友人の顔写真」(1.51点)、「学校や職場での出来事(写真あり)」(1.53点)、「家族の行事(写真あり)」(1.58点)、「家族の行事(写真なし)」(1.60点)などの身近な人との交流よりもSNSで頻繁に発信されていることがわかりました。

12の事柄について因子分析を行ったところ、2つ因子(項目群)が抽出されました。第1因子は、「学校や職場での出来事(写真あり)」「学校や職場での出来事(写真なし)」「家族の行事(写真あり)」などの7項目で構成され、「親しい人たちとの日常的な交流」と名づけました。第2因子は、「食べ物の写真」「旅行や遊びに行ったこと(写真なし)」「旅行や遊びに行ったこと(写真あり)」などの5項目で構成され、「非日常的な出来事」と名づけました。 「親しい人たちとの日常的な交流」の情報発信も「非日常的な出来事」の情報発信も、その頻度に男女差はありませんでした。

2.SNS上での女らしい表現やハッシュタグ運動に対する評価

SNS上での女らしさのアピール

SNSで情報を発信すると回答した女性183名に、「自分の顔を加工する/盛る」「自分の足の長さや太さなどの容姿を加工する/盛る」「自分と家族の仲がよいことをアピールする」など5つの事柄をSNSに投稿する際にどの程度頻繁に行うかを「全くしない~いつもする」の4択で尋ねました。すると、どの項目も「全くしない」を選択した人が6割弱~75%弱を占め、女性たちはSNS上で女らしさをアピールすることは稀であることがわかりました。このことは、「全くしない」を1点、「たまにする」を2点、「ときどきする」を3点、「いつもする」を4点として、それぞれの事柄で平均値を算出してみても明らかです。最も点数の高かった「自分の顔を加工する/盛る」であっても1.77点で、次に平均値が高かったのは「自分と家族の仲がよいことをアピールする」の1.61点、その他の項目は1.50点を下回っていました。

以上のようなSNS上での女らしさのアピールの望ましさ(全く望ましくない~とても望ましい)を調査協力者全員に尋ねました。「全く望ましくない」を1点、「あまり望ましくない」を2点、「どちらでもない」を3点、「まあ望ましい」を4点、「とても望ましい」を5点として、それぞれの事柄で平均値を算出したところ、顔や外見の加工は中点(3点)を下回り、「自分と家族の仲がよいことをアピールする」(3.14点)、「自分が料理を作るのが得意であることをアピールする」(3.12点)などの内面やスキルのアピールは、わずかに中点を超えていました。

これらの項目について因子分析を行ったところ、2つの因子(項目群)が抽出されました。第1因子は、「自分と家族の仲がよいことをアピールする」「自分が家族のことをどれだけ思っているかをアピールする」「自分が料理を作るのが得意であることをアピールする」の3項目で構成されており、「家庭的女子」と名づけました。第2因子は、「自分の顔を加工する/盛る」「自分の足の長さや太さなどの容姿を加工する/盛る」の2項目で構成されており、「外見・容姿」と名づけました。これら2つの因子について、男女差を検討したところ、「外見・容姿」では、女性よりも男性の方が厳しい意見を持っていることがわかりました。

ハッシュタグ・フェミニズムに対する評価は微妙

調査協力者全員にハッシュタグ・フェミニズムをどう思っているかを、「社会や人々の考え方を変えるのに効果的である」「女性の権利を主張しすぎている」「当事者とそうでない人の対話を妨げる」などの10項目について「全くそう思わない~非常にそう思う」の5択で回答してもらいました。「全くそう思わない」を1点、「あまりそう思わない」を2点、「どちらともいえない」を3点、「まあそう思う」を4点、「非常にそう思う」を5点として、各項目の平均値を算出しました。すると、3点前後の項目が多く、「どちらともいえない」という評価が主流であることがわかりました。

10項目について因子分析を行ったところ、2因子(項目群)が抽出されました。第1因子は、「女性の権利を主張しすぎている」「行き過ぎた行動である」「当事者とそうでない人の対話を妨げる」「一部の人だけで盛り上がっている」などの7項目で構成されていたため、「否定的評価」と名づけました。第2因子は、「社会や人々の考え方を変えるのに効果的である」「気軽に参加できる」「多くの人に訴えることができる」の3項目で構成されていたため、「肯定的評価」と名づけました。それぞれの因子の男女別の得点を算出し、その差を検討したところ、「否定的評価」の得点は男性の方が女性より高く、「肯定的評価」の得点は女性の方が男性より高いことがわかりました。

以上より、ハッシュタグ・フェミニズムに対する評価は、全体的に中庸でありますが、男性は女性よりも否定的で、女性は男性よりも肯定的であるといえます。

3.ハッシュタグ・フェミニズムへの女性たちの関わり

ハッシュタグ・フェミニズムを知る人はマジョリティではない

Twitterでトレンド入りしたことのある#MeToo、#KuToo、#わきまえない女、生理の貧困、夫婦の別姓などの7つのハッシュタグ・フェミニズムについて、知っているか否かを1つずつ答えてもらいました。すると、図3に示されているように、「どれも知らない」と答えた人が57.1%と最も多いことがわかりました。最もよく知られていたのは「#MeToo」(27.9%)で、「夫婦別姓」(24.4%)、「生理の貧困」(18.2%)、「#KuToo」(11.4%)は1割以上の人たちが「知っている」と答えました。森喜朗・東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長(2021年当時)を辞任に追い込んだ「#わきまえない女」は、4.8%の人しか知りませんでした。なお、知っている人の割合が男女で差があったのは、「生理の貧困」(男性12.5%、女性23.8%)のみでした。

図3

ハッシュタグ・フェミニズムに参加した人はほとんどいない

それぞれのハッシュタグ・フェミニズムについて「知っている」と回答した人たちのみに、「#(ハッシュタグ)などで検索した」「関係する記事を読んだ」「リツイートした」「オンラインデモに参加した」「身近な人と意見を述べ合った」などの9つの行動について、それぞれ行ったことがあるかないかを答えてもらいました。どれも行ったことがない人のために「何もしなかった」という選択肢も設けました。

どのハッシュタグ・フェミニズムについても、「何もしなかった」を選択した人が最も大きな割合を占めていました(#MeToo=61.8%、#KuToo=48.9%、#わきまえない女=37.9%、フラワーデモ=35.4%、生理の貧困=48.2%、生理バッジ=39.4%、夫婦別姓=56.0%)。#MeTooはハリウッド俳優のアリッサ・ミラノ氏のツイートがきっかけとなり世界的な規模で盛り上がりを見せたことが知られており、マス・メディアでも取り上げられました。夫婦別姓は、1990年代より議論されているもので新聞紙上などのマス・メディアでも取り上げられてきました。このような自分たちから興った運動ではないものについては、比較的静観する人が多いようです。

全てのハッシュタグ・フェミニズムにおいても、最も行為者率が高かったのは、「関係する記事を読んだ」で、「#わきまえない女」では89.7%を占めていました。その他のハッシュタグ・フェミニズムでは、30〜50%を占めていました(#MeToo=30.1%、#KuToo=38.0%、フラワーデモ=40.2%、生理の貧困=39.0%、生理バッジ=49.3%、夫婦別姓=33.4%)。

次に行為者率が高かったのは、「#(ハッシュタグ)などで検索した」もしくは「身近な人と意見を述べ合った」でした。これらの行動においても、「#わきまえない女」での行為者率は「#(ハッシュタグ)などで検索した」は25.9%、「身近な人と意見を述べ合った」は17.2%と突出して高い率を占めていました。その他のほとんどのハッシュタグ・フェミニズムでは「#(ハッシュタグ)などで検索した」が「身近な人と意見を述べ合った」よりも行為者率は高かったのですが、「生理の貧困」と「夫婦別姓」では若干「身近な人と意見を述べ合った」の行為者率の方が高くなっていました。自分が関係する問題として、親しい間柄の人と話をする機会が他のものよりもあったのではないでしょうか。

その他の「自ら#をつけてツイートした」「リツイートした」「署名した(オンライン・紙のどちらでも)」「オンラインデモに参加した」「対面のデモに参加した」「反対意見を述べた(身近な人へ、SNS上で)」は、どれも5%を上回ることはほとんどありませんでした。

以上より、ハッシュタグ・フェミニズムの存在を知っていることは、必ずしもSNS上でのそうした運動に人々を駆り立てるわけではなく、むしろ半数以上の人たちは、そうした運動を静観していることがわかりました。とりわけ、運動に参加していることや自分の意見・立場を公言することになるリツイートや署名、デモへの参加などを行う人は非常に少なく、関係記事を読むことに留まる人たちがほとんどでした。

おわりに

以上が、「SNSとジェンダーに関する意識調査」の結果概要となります。

今回は、SNSの利用の仕方やハッシュタグ・フェミニズムへの参加の度合いとその評価と、それらの男女差を報告しました。今後、心理的変数との関連など、より詳細な検討を行っていきます。

有馬明恵

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